第2回宗教法人の公益性に関するセミナー 「震災復興と宗教」―要旨―
東日本大震災から二年半が経ち、復興が進められる中で、一部の官公庁から「寺や神社などの宗教法人は、憲法が定める『政教分離の原則』により、直接的な公的支援を受けることができない」といった見解が示され、被災地からは政教分離原則の解釈や運用上の誤解が、宗教施設復興の障壁の一つとなっているとの報告が寄せられている。
こうした背景をふまえ、本連盟では、「第二回宗教法人の公益性に関するセミナー『震災復興と宗教』」を平成二十五年十二月十三日(金)に神社本庁大講堂にて開催し、石井研士・本連盟理事・國學院大学教授がコーディネーターを務め、約百二十名が参加した。
○基調講演
赤坂憲雄(学習院大学教授、民俗学者、東日本大震災復興構想会議委員)
震災当初、被災地を自ら歩いて回る中、瓦礫の他に何もない土地に孤高に立ち尽くす鳥居や地蔵、亡くなった人を弔う為の祭壇や墓地などが点在し、祈りを捧げる人達を多く見かけ、宗教が人々の心の拠り所として身近にあることを感じた。
古くに創設された由緒ある神社やその昔慰霊の場であった貝塚が、津波の被害があった地点より高台にあったことが分かっており、また高台移転の進む町の中には、高台の入り口に墓地、高台の頂上に神社を真っ先に建てたところがあった。この様なことから宗教施設はコミュニティーのアイデンティティーが形成される時に、とても重要なものとみなされていることがわかる。
こういった現状を鑑み、震災復興構想会議でも宗教施設はコミュニティーにとって大切な場所であり、支援をすべきとの提案があったが、「政教分離の観点から難しい」と却下された経緯がある。民俗芸能はお寺や神社と密接に関わっており、国も民俗芸能には支援を行っているが、今回の震災によって、民俗芸能と宗教とのつながりがより明確になり、支援のあり方について様々な検討がなされる様になった。
宗教と人々の生活が決して切り離すことの出来ないものであると認識されたこの震災で、コミュニティー再興と宗教施設のあり方についても、きちんと考えなくてはいけないのではないだろうか。
○パネリストによる提言
丹治正博(福島県宗教団体連絡協議会会長、福島県神社庁長)
東日本大震災は貞観地震以来の規模の災害だと言われているが、この貞観地震の慰霊鎮魂として始まったのが、京都の祇園祭であり、祭りは人々の心の拠り所であった。文化財となっている大きな神社仏閣の民俗芸能には復興の手が差し伸べられているが、地元に根付いた小さな神社の祭りや伝統芸能こそが地域の絆を育んできたのであり、この再興なくして真の復興はありえないと強く感じている。
福島県は原発問題により、復興もなかなか進まない中、震災後、協力して慰霊と鎮魂の祈りを行い、神社やお寺が地域の絆としての役割を果たしてきたが、行政機関は「政教分離」を楯に支援に前向きではない。宗教の役割を考え、解釈のあり様によって、いくらでも支援は可能ではないだろうか。
川上直哉(仙台キリスト教連合被災支援ネットワーク事務局長)
宮城県には県庁が事務局を受け持って作られた宮城県宗教法人連絡協議会がある。この団体が中心となり諸宗教団体が協力して支援を行ってきた。現在も毎月公共施設で被災して亡くなった身元不明者の慰霊を行っている。
現場では重要文化財指定物への公的支援はなされても周囲の宗教施設への支援は皆無であったり、瓦礫撤去作業の為に墓地が公的機関に荒らされた事例もある。「宗教は免税なのだから、自主再建で行うべきだ」との声も多いが、憲法の政教分離原則を語るのであれば、生存権の保障を一定程度宗教法人にも認める可能性はないのか。たとえば規制緩和を行うだけで助かる法人もある。
行政と連携して避難民の帰還の受け皿を作り出しつつある寺院もあり、現場では具体的・現実的な提案が生まれている。たとえば日本宗教連盟が復興庁宛に出した「福島復興再生基本方針」に対する意見書は意義あるものであり、この様に行政機関に働きかけていくことが重要だ。しかし、国ではなく地方自治体に権限が移譲されたという状況の変化が、膠着した現状を生み出している。各県宗教団体連合等と日本宗教連盟等とが連携を深め、行政への働き方を改めて模索し直さなければならないと思う。
長谷川正浩(弁護士、日本宗教連盟評議員)
まず、宗教法人の解散の問題については宗教法人法に「礼拝施設が滅失し、やむ得ない事由がないのにその滅失後二年以上にわたってもその施設を備えない」場合や「一年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いている」場合は「解散を命じることができる」とされている。現時点では大きな問題となっていないが、宗教施設の全壊が百以上あり、復興が進まない現状で、解散事由を認識しても所轄庁は厳しい対応をしないようであるが、その動向を注視したい。
また復興と政教分離の問題については、「宗教そのものの観点から復興施策を講ずることについては憲法二十条の規定を踏まえ、慎重な対応が必要」という復興庁の見解に、日本宗教連盟や全日本仏教会が意見書を提出している通り、宗教施設に対する復興支援の問題がある。津地鎮祭事件最高裁判決にある「政教分離原則を完全に貫こうとすれば、かえって社会生活の各方面に不合理な事態を生ずることを免れないのであって…宗教と関係あることによる不利益な取扱い、すなわち宗教による差別が生ずることになりかね」ない状況が、今被災地に見られるのではないだろうか。
政教分離とは本来信教の自由を守る為の制度的保障であり、宗教への不当な差別を行う理由となってはならないということを今一度考えなければいけないのではないだろうか。
公益財団法人日本宗教連盟
「第二回宗教法人の公益性に関するセミナー『震災復興と宗教』」
講演要旨
平成25年12月13日・会場 神社本庁大講堂
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