第1回 宗教文化セミナー【要旨】

第1回宗教文化セミナー

第一部 宗教関係者(専門職)講習会

  「東日本大震災と地域社会の再興―宗教法人と公益性―」

第二部 公開セミナー

  「こころに寄り添うということ」

<要旨>

平成24年3月14日、國學院大學・常磐松ホールにおいて、第一回宗教文化セミナーを開催し、二つのテーマについて講演が行われた。

 

第一部 宗教関係者(専門職)講習会

「東日本大震災と地域社会の再興―宗教法人と公益性―」

東日本大震災以降、各宗教法人や宗教団体は救援並びに支援活動を行い、また、各種団体との連携によって復興支援活動を行ってきた。震災後一年経ったいま(当時)、今後は地域社会再興のために、宗教者はどのような支援を担っていけるのかが課題となっている。

第一部では、宗教法人の社会活動や、被災地における活動のあり方について考察した。

 

「宗教法人の社会活動と地域社会について」

講師の石井研士・國學院大学神道文化学部教授・日宗連理事は、地域社会において宗教法人や宗教団体がもつという「社会統合機能」とは、祭りや伝統芸能をとおして地域社会が再生し、地域の人々の一体感や精神的な紐帯が図られることであると紹介。また、寺社仏閣に限らず教会等の存在が、地域の人々の心を安定させ結束させながら維持していく役割を果たしている、とその公益性を説明。震災における宗教団体の支援活動では、信仰による縦の系図のみならず信者による地域のネットワークが生かされたと紹介した。

一方、現在は被災地に限らず都市化、過疎化による限界集落の問題と地域社会における地縁の希薄化が進んでいる事実も指摘。さらに、宗教団体の社会貢献や、被災地における支援活動が認識されないのは報道等の在り方も影響していると考え、それらの対応も考慮する必要があると提言した。

「石井先生」

 

「被災地における宗教の関わり〜今までとこれから〜」

講師の稲場圭信・大阪大学大学院人間科学研究科准教授は、宗教的環境から育てられるという「共感縁」や「利他主義」という視点から被災地における宗教や宗教者のかかわり方を紹介。「共感縁」とは共感する心、他者に向けていく心であり、宗教ボランティアは宗教的利他主義、つまり他者とのかかわりに宗教的理念や世界観が大きく作用してなされている。さらに、日常的に苦に寄り添ってきた宗教者だからこそ、一人一人と日常の生活を共にしながらかかわり、息の長い活動ができると考える。傾聴ボランティアなどの心のケアは、地縁・社縁・血縁を超えた共感に基づく縁による寄り添いのケアとして行われ、また、医学的・心理学的なものと違い奥深い心にかかわる問題に働きかけることができる可能性を秘めていると指摘。

一般的に社会貢献こそ公益性と理解する傾向があるが、震災直後から各宗教施設が被災者受入れの緊急避難所として機能した事実から、日常における災害の備えを行い、緊急時には広い空間や備蓄などの資源力、人的力、祈りの力なども宗教の持つ力として有効であることを述べた。被災後一年経った現在、実際に現地を回りながら感じた現状を写真で紹介しながら、復興には地域格差があり、今後も被災地支援は必要であることを述べた。

「稲場先生」

 

 

第二部公開セミナー講演並びに対談「こころに寄り添うということ」

東日本大震災では多くの方が一瞬にして大切な家族や親しい人々を失った。物質のみならず精神的な復興の重要性から、各地では被災による不安や悩み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)へのカウンセリングや傾聴ボランティア等による心のケア活動が行われている。また、日常生活でも他人の死や自らの死に直面したとき、本人のみならずその家族や友人なども精神的な苦痛やこころに深く傷を負うことが知られている。このような時に不用意にかけた一言が、知らず知らず当人を傷つけ、さらに苦しめることがある。

第二部では、講師に大西秀樹・埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科診療科長・教授を迎え、末期がん患者の緩和ケアのみならず、その家族にも寄り添いながら、精神的な辛さを緩和する家族外来診療等の経験を伺い、苦しみ痛むこころに「寄り添う」ということはどうあるべきかを考察した。

 

大西教授は、がん医療の現場から様々な患者との寄り添いと対話の実例を紹介。子どもを思い、死ぬに死ねないといって座ったまま亡くなったがん患者の例。末期がんの夫を看取った妻が、看病による適用障害で家族外来を受診したが、本人もがんの術後であったこと。さらに夫との死別後、親族によるトラブルが心因となり遺族外来で再び通院したという例などを紹介。

また、配偶者や家族との死別による遺族の心的ストレスの大きさについて指摘があった。寄り添うということを考えるとき、遺族にケアが必要と言われる理由は、死別によるストレスが原因の死亡率が高いこと(男性で四〇%)、うつ病など精神的疾患の罹患率や、自殺率が高くなることなどをあげた。このような遺族に対して必要な支援は、苦悩に耳を傾けること。患者のケアとともに看病している段階で家族とも関係をもち、継続的に支援すること。また、遺族がうつ病である可能性もあり、専門的治療が必要か見極めることも大切である。

さらに、遺族に対して興味本位な詮索や有害な援助が知らず知らず行われることも紹介。有害な援助の例として、悪気のないアドバイスをする・回復を鼓舞する・陽気に振舞う・不遜な態度をとる・過小評価をする・あなたの悲しみが分かる、といった態度や対応は行うべきではない。一方、有用な援助としては、同じ境遇の人と接する・感情を吐き出す機会を持つ・誠実な関心を示す・そばにいる、ということである。悲しみがいえるのには時間がかかるが、有用な援助による本当の寄り添いが大切であることを知る機会となった。

 

引き続き、大西教授と戸松義晴・日宗連事務局長が対談を行った。戸松事務局長は、生命倫理・医療倫理を研究し、経産省のライフエンディングステージに関する研究会委員に携わった経験と、また、自身が僧侶として人々の死と向き合ってきた立場から、私たちはどのように対応したら良いかを大西教授とともに考察した。参加者からもたいへん有意義な会であったとの感想が寄せられた。 (文責事務局)

「大西先生と戸松事務局長」

 

公益財団法人日本宗教連盟

「第1回宗教文化セミナー」要旨 (文責事務局)

平成24年3月14日・会場 國學院大學 常磐松ホール

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