平成29年度事業報告書(概要)

公益財団法人日本宗教連盟

平成29年度事業報告(概要)

(平成29年4月1日~平成30年3月31日)

 

Ⅰ 事業

第1  概要

事業の状況

当連盟は、宗教界の連合組織として、神道・仏教・キリスト教・新宗教等の垣根を越えて、信教の自由の尊重と擁護のもと、宗教文化を広く社会に振興・普及することで、道義に基づく豊かな社会の形成に寄与するとともに、もって世界平和の確立に貢献する活動を展開している。

当事業年度も上記事業趣旨に基づき、教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会、地方宗教連盟及びその他の団体との緊密な提携を図り、公益目的事業である「宗教文化振興事業」を柱に、調査研究活動、講座・セミナー開催活動、広報普及活動などを展開した。

 

[ 信教の自由の尊重と擁護並びに宗教文化の振興・普及に関する事業 ]

 

第2  各活動の実績

1. 調査研究

(1) 信教の自由の尊重と擁護並びに宗教文化の振興に関する調査研究の実施

ア. 宗教文化を振興するための宗教法人の公益性と信教の自由に関する調査研究の実施(A)

(ア) 宗教法人実務研修会における講義のための調査研究

文化庁・開催都道府県主催の同実務研修会における講義資料作成のため、宗教法人の公益性に関する研究協議を行った。

(イ) 日本における信仰の自由に対する意見に関する米国大使館による面談への対応

米国大使館より「日本における信仰の自由に対する意見」に関する面談の依頼があり、米国国務省 民主主義・人権・労働局 国際的な信仰の自由担当部から外務担当官が明照会館に来訪。事務局長が質問について対応した。

(ウ) 文部科学省による、第3期教育振興基本計画の策定、並びに、高等学校学習指導要領の改訂にあたり、宗教文化振興の観点から研究し、意見書を提出

当連盟では、宗教文化振興の観点から、公教育における公平公正な「宗教知識教育」と「宗教文化教育」の推進は避けて通ることができないと考え、宗教知識や宗教文化に関する教育の在り方について協議を重ね、意見を公表してきた。近年、グローバル化が進む社会においては、世界の民族や宗教、歴史的・文化的背景を持った多様な価値観をもつ人々を理解することが必須の条件となると当連盟では考えている。

このたび、学校教育に関して、第3期教育振興基本計画の策定と高等学校学習指導要領の改訂が行われるため、それぞれ意見書の提出をおこなった。

・ 「第3期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過について」意見を提出

平成30年度から開始する第3期教育振興基本計画の策定に向けて、中央教育審議会教育振興基本計画部会は、平成29年9月19日付け「第3期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過について」を取りまとめ、文部科学省ホームページで公開し、パブリックコメント(意見公募手続)が実施された。

これに対し、当連盟では平成29年3月に提出した意見書をもとに内容を研究協議し、意見を提出した。

・ 「高等学校学習指導要領案」について意見を提出

文部科学省初等中等教育局教育課程課は、平成30年2月14日に「学校教育法施行規則の一部改正及び高等学校学習指導要領の改訂案」を公表し、意見公募手続(パブリックコメント)が実施された。

これに対し、当連盟では高等学校学習指導要領案の内容を研究協議し、公教育における公平公正な「宗教知識教育」、「宗教文化教育」が行われるよう、意見を提出した。

(エ) 文化庁による、文化芸術推進基本計画(第1期)の策定にあたり、宗教文化振興の観点から研究し、意見書を提出

文化庁長官官房政策課による「文化芸術推進基本計画(第1期)の策定について(中間報告)」パブリックコメントの募集が12月28日に公表された。

文化財や伝統芸能の中には、信仰的・宗教的価値が結実し、長い歴史を経て国宝や重要文化財としての意義を認められているものが数多くある。当連盟では、同基本計画の策定にあたっては、憲法第20条及び第89条の宗教条項(いわゆる、政教分離の原則といわれるもの)が厳しく運用されたり、過剰に阻害されたりすることがないように、文化芸術の保護の観点から公平公正に配慮されることを求めて、意見書を提出した。

なお、提出した当連盟の意見は、策定された基本計画にも反映された。

(オ) 「文化財保護法」の一部を改正する法律案について、宗教文化振興の観点から、文化庁文化財部伝統文化課と意見交換

政府は、文化財をまちづくりに活かしつつ、地域総がかりで、その継承に取組んでいくことが必要であるとし、保存や活用に関する改正を盛り込んだ、「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案」が3月6日に閣議決定された。これを受けて、宗教文化の振興と普及、並びに、保護の観点から、情報収集と研究のため、文化庁文化財部伝統文化課の担当者と、幹事並びに5団体担当者による意見交換を行った。

(カ) 厚生労働省による「『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』の改訂のポイント」について、「いのち」や「生と死」、「看取り」と、宗教や信仰の観点から研究し、意見書を提出

1月29日に、厚生労働省医政局地域医療計画課による「『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』の改訂のポイント」について意見公募手続が実施された。

生命倫理の問題を扱ってきた当連盟では、「医療・ケア」の現場のみならず、超高齢化社会では、一人ひとりがどのような最期を迎えるか、いかに生を終えるかということが、人間の尊厳を守るために必要であると考えている。その際、患者本人のこれまでの人生観や価値観、死生観の中に、個人の信仰や宗教観が影響を与えている場合もあるため、配慮される必要がある。

また、今後は自宅での介護や看取りが増えると予測されることから、患者自身のみならず、患者とともに最期のときを共有する家族のこころのケアや、医療や介護の従事者のこころのケアも重要性が増してくると言える。そういったなかで、信仰や宗教者の果たすべき役割は大きい。このたびの改訂にあたって、「いのち」や「生と死」、「看取り」と、「宗教や信仰」の観点から、医療や介護における宗教的アプローチについて研究し、意見書を提出した。

 

イ. 宗教文化を振興するための宗教法人実務研修会等の推進 (B)

(ア) 文化庁並びに都道府県主催「平成29年度宗教法人実務研修会」への講師派遣と、評価企画会議等委員派遣の協力

宗教法人の適正な管理運営に資することを目的として宗務行政への各種協力を行い、これらの活動をとおして信教の自由の尊重と擁護、並びに、宗教文化の振興と普及に努めた。

・ 「平成29年度宗教法人実務研修会評価企画会議」へ事務局長と幹事を委員として派遣した。

・ 「平成29年度宗教法人実務研修会」各会場に講師として事務局長・幹事が出向し、「宗教法人の公益性」について講義を行った。(全9会場)

1)北海道・東北地区(10月24日、岩手県・幹事)

2)第1回関東甲信越静地区(10月5日、神奈川県・事務局長)

3)第2回関東甲信越静地区(11月16日、群馬県・幹事)

4)第1回近畿・中部地区(10月19日、福井県・幹事)

5)第2回近畿・中部地区(10月26日、兵庫県・幹事)

6)第1回中国・四国地区(10月2日、徳島県・幹事)

7)第2回中国・四国地区(10月30日、山口県・事務局長)

8)第1回九州地区(9月28日、宮崎県・幹事)

9)第2回九州地区(11月14日、佐賀県・幹事)

(イ) 文化庁主催、平成29年度開催「宗教法人制度の運用等に関する調査研究の協力者会議」への協力者委員派遣の協力

・ 平成29年度に開催の「宗教法人制度の運用等に関する調査研究の協力者会議」の協力者として事務局長が出席した。

(ウ) 文化庁主催「平成29年年度不活動宗教法人対策推進会議」への委員派遣の協力

・ 「平成29年度不活動宗教法人対策推進会議」の委員として事務局長が出席した。

(エ) 文化庁主催各種研修会への講師推薦協力

・ 文化庁主催「平成29年度都道府県宗教法人事務担当者研修会(認証事務・不活動宗教法人対策)」の講師推薦の協力を行った。

 

ウ. 宗教文化を振興するための協賛団体(教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会)、並びに、関係諸団体との連絡・協議・調査研究等の実施 (C)

(ア) 協賛団体との連携協力による調査研究

・ 協賛団体(5団体)との連携によって、宗教・宗派の垣根を越えて信教の自由の尊重と擁護、並びに、宗教文化の振興と普及を行っている。本年度は次の内容について研究並びに協議を行った。「宗教と教育に関すること」、「宗教や信仰と文化芸術・文化財に関すること」、「生命倫理として『いのち』や『生と死』、『看取り』と、『宗教や信仰』について」。宗教や宗教文化と密接な関わりを持つ諸問題に関して意見交換や情報収集を行い、意見書を取りまとめた。また、行政への陳情を行った。

また、宗教法人の厚生年金への未加入の問題について、5団体で情報共有を行い、3月には厚生労働省年金局担当者を交え意見交換を行った。

(イ) 関係諸団体及び、官庁との連携協力による調査研究

・ 公益財団法人全国教誨師連盟主催「第52回教誨師中央研修会・表彰式典」に理事長が参列し、宗教教誨事業功労者12名に感謝状と記念品を贈呈した。また、表彰式典への参列等の交流をとおして、同連盟から提供される資料をもとに、宗教教誨の現状や社会的問題についての情報を得ている。

・ 法務省主唱、第68回「社会を明るくする運動」について、協力団体として広報推進の協力を行った。

 

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2. 講座・セミナー

(1) 宗教文化並びに信教の自由に関するシンポジウム及び講演等の開催

ア. 宗教と生命倫理シンポジウムの開催 (A)

(ア) 第8回宗教と生命倫理シンポジウムの開催

・ 近年ますます少子高齢化が進み、核家族や単身世帯の増加など、ライフスタイルの多様化も進んでいる。こういった社会構造の変化が、人々を日常的な「生」と「死」の現場から遠ざけることになった。しかしその反面、あらゆるものの情報化が進み、誰もがインターネットやSNSなどを介して多様な知識や価値観に触れる機会をもつ社会となった。このような社会環境の変化は、個人の死生観にも大いに影響を与えると考えられる。

日本宗教連盟では、これまで死生観について、特に医療分野に焦点を当てつつ宗教的観点を交えながら考察してきた。前回までは、脳死・臓器移植法や尊厳死の法制化、生殖補助医療などの諸問題をめぐって、多様な価値観からそれぞれの問題点や論点を紹介し、国民的議論の必要性を呼びかけてきたが、今回のシンポジウムでは、「生殖技術―『自然』から新しい倫理の模索へ」をテーマとして、生命倫理学、ジェンダー論を専門とする研究者をまねき、社会学的見地から問題点を提起していただくことを目的とした。

いのちの尊厳や生命倫理をめぐる問題は、一人一人の死生観と密接に結びついており、宗教の根幹にもかかわる重要な課題と言える。シンポジウムがきっかけとなり、広く一般にたいしても次の議論への導入となった。一般、並びに、宗教関係者から多数の参加があった。

日 時  平成29年12月11日(月)午後3時~5時30分

会 場  神道大教院(東京都港区西麻布)

テーマ 「生殖技術―『自然』から新しい倫理の模索へ」

講 演  柘植あづみ 氏(明治学院大学社会学部教授)

対 談(インタビュー形式)

柘植あづみ 氏、インタビュアー 猪子恒 氏(日本宗教連盟評議員)

対象者 一般、並びに宗教関係者

参加者 88名

イ. 宗教文化セミナーの開催 (D)

(ア) 第6回宗教文化セミナーの開催

・ 日本をはじめ世界各国には、多様な文化や芸術が存在する。それらは豊かな社会を築く人間生活の基盤となり、精神的支柱として重要な役割を担っているといえる。我が国においても、日々の暮らしに息づく伝統や文化は、私たちに懐かしい情景を見せ、「日本の原風景」を思い起こさせる。

近年、その懐かしい情景を湛えた山間部などの地域では、急速な過疎化や限界集落化が進んでいる。その一方で、インターネットやスマートフォンの普及等に伴う流通の発展によって、都市部における生活はたいへん便利になった。しかし、便利な生活は、ややもすると豊かなこころを育む暮らしを遠退けることにもなり、私たちは「大切な何か」を失いつつある。

今回の宗教文化セミナーでは、利便性の陰で私達が見過ごしてきた日本の文化や失われつつある日本の情景を発掘し、古民家再生を通じて地域を再興するプロジェクトを完成した、東洋文化研究者を招き講演をいただいた。講師は、プロジェクトにあたって、地元住民や行政機関との折衝に苦労されたが、再生した古民家は、現在、国内外からの宿泊客にとって自然や風土とともに生活してきた懐かしい日本の暮らしを体験する貴重な場となっている。

当連盟では、文化や風土の基盤には信仰や宗教の存在を無視できないと考えているが、本セミナーを通して、あらためて日本の文化について見つめ直すことを目的とした。また、広く一般にも日々の暮らしと「宗教文化」との関係を紹介する機会として開催したが、一般、並びに、宗教関係者からの参加があった。

日 時  平成30年3月30日(金)午後2時~4時30分

会 場  神道大教院(東京都港区西麻布)

テーマ 「美しき日本の残像―古民家の再生と日本再生」

講 演  アレックス・カー 氏  東洋文化研究者、NPO法人「篪庵トラスト」理事長

対 談  アレックス・カー 氏

田中 恆清 氏  日本宗教連盟理事、神社本庁総長

対象者 一般、並びに宗教関係者

参加者 62名

 

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3. 広報活動

(1)ホームページによる宗教文化並びに信教の自由に関する情報の発信及び広報の推進

ア. ホームページによる情報発信

・ 信教の自由の尊重と擁護、並びに、宗教文化の振興と普及のため、各種活動に関する情報やセミナーの開催告知、事業活動等の概要についてホームページで公開し、広く一般へ情報を発信することに努めた。

・ 機関紙『日宗連通信』を電子化してホームページで公開することで、宗教文化の社会との関わりや、当連盟の事業活動について情報を広く一般に提供した。

(2) 機関紙『日宗連通信』による宗教文化並びに信教の自由に関する情報の発信

ア. 機関誌の編纂、刊行

・ 『日宗連通信』の発行

平成29年度の機関誌『日宗連通信』は、主催シンポジウム等の概要を中心に、教育振興基本計画や中学校学習指導要領改訂に関する意見書等について紹介した。

『日宗連通信』は700部作成し、関係諸団体を中心に配布した。また、ホームページでPDF版を公開することで、広く一般社会にも情報を提供した。

・ 平成29年度宗教法人実務研修会全9会場での配布資料として、『別刷・日宗連通信』を1900部作成し、研修会参加の宗教法人関係者を通して、一般にも情報を発信した。

 

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4. その他、目的を達成するために必要な活動

(1) 関係諸団体及び、官庁等への協力

ア. 各種依頼への協力

・ 厚生労働省主催・千鳥ヶ淵戦没者墓苑拝礼式に幹事が参列。

・ 公益財団法人庭野平和財団主催・第34回庭野平和賞贈呈式に理事長が参列し祝辞。

・ 比叡山宗教サミット30周年記念・世界宗教者平和の祈りの集いに理事長、理事は議長団として参列。理事長が開会式典で歓迎挨拶。

・ 新日本宗教青年会連盟主催・第52回戦争犠牲者慰霊並びに平和祈願式典に理事長が参列し献花。

・ 政府主催・全国戦没者追悼式に理事長が参列し献花。

・ 全日本仏教会主催・公益財団法人全日本仏教会財団創立60周年記念式典 並びに第44回全日本仏教徒会議福島大会に理事長並びに理事ほか当連盟関係者が参列。理事長が記念式典で来賓挨拶。

・ 千鳥ヶ淵戦没者墓苑奉仕会主催・秋季慰霊祭に理事長が参列し献花。

・ 世界連邦日本宗教委員会主催・創立50周年記念 第39回世界連邦平和促進 全国宗教者・信仰者 長崎・平戸大会に協賛し、理事長が参列し祝辞。