臓器移植法改正問題に対する意見書

平成18年11月16日
財団法人 日本宗教連盟
理事長 山 北 宣 久
東京都港区芝公園4-7-4明照会館内

 日本宗教連盟は、「臓器の移植に関する法律」(以下「臓器移植法」)改正をめぐる諸問題に対し、わが国の文化および国民の人生観と死生観の形成に寄与してきた宗教者の立場から、以下のとおり意見を表明いたします。
 臓器移植法が施行されて9年が経過しましたが、脳死状態であっても心臓が動き、温かい血液が循環し、汗も涙も流す人間の身体を「人の死」とすることに未だに国民的合意は得られておりません。医学界のみならず、科学者、法律家のなかでも「脳死は人の死ではない」とする見解が多く、こうしたなかで改正を強行することは、将来に禍根を残すものと思料いたします。
 さて、中山太郎衆議院議員らが提出した臓器移植法改正案(A案)は、本人が生前に臓器提供を拒否していない限り、家族の同意で、脳死での臓器移植を可能にするとしています。しかし、人間が生きること・死を迎えることについての考えは、個々人の人生観、死生観によって異なり、人間存在と深くかかわることから、「本人の書面による意思表示」は、脳死・臓器移植にとって欠くことのできない絶対条件であると考えます。  一方、斉藤鉄夫衆議院議員らが提出した同法改正案(B案)は、臓器提供の年齢制限を「15歳以上」から「12歳以上」に緩める内容となっていますが、社会的に弱い立場にあり、脳死・臓器移植に十分な理解を持ち得ない子どもの臓器提供は、大人とは別のルールが必要であると考えます。また、親が子どものいのちにかかわる意思をどこまで代弁することができるのかなど、検討すべき多くの問題をかかえており、これらの問題が解決されていない現状では、15歳未満への拡大に反対します。
 日本宗教連盟は、国民一人ひとりがそのいのちを最後まで人間らしく生き、やがて穏やかに死を迎えることができるよう、幅広く議論を深めていくべきであると考えます。また、この問題が国民の生と死にかかわる問題であることから、十分な議論を経ずに多数決で決するのではなく、宗教界からの意見を含め、慎重に検討を続けられますよう要望いたします。現在提出されているこれらの改正案を国会審議の限られた時間のなかで検討するのではなく、第2次「臨時脳死及び臓器移植調査会」を設置し、脳死判定のあり方も含め、科学的、医学的、法律的、倫理的諸側面において、社会的合意が成立するまで検討を重ねられますよう強く要望いたします。
 なお、10月初め、愛媛県宇和島市で明らかになった生体移植による臓器売買事件では、臓器提供者の「書面による意思表示」がなかったことが大きな問題となっています。この事件後、「脳死からの臓器移植をもっと多くしなくては」などの声が一部で起こりましたが、「書面による意思確認」を含め、法的に規制がなく、移植後のドナー、レシピエントとも健康状態の確認もされてこなかった生体移植にこそ、明確な法規制が必要であることを申し添えます。