「『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』の改訂ポイント」への意見

「『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』の改訂ポイント」への意見

 

                       平成30(2018)年2月9日

厚生労働省

医政局地域医療計画課在宅医療推進室 御中

                       公益財団法人 日本宗教連盟

                           理事長 芳村 正德

 

 

【意見】

「患者本人のこれまでの人生観や価値観等」には、個人の信仰や宗教観が含まれていると思います。患者自身のみならず、患者とともに最期のときを共有する家族の「こころのケア」を行うことが重要と思います。そこにおいて、信仰や宗教者の果たすべく役割は大きく、私たちも常に家族の皆様のこころに寄り添う努力をしています。したがって、多専門職種からなるケアチームの一員に宗教者が加わるべきでありましょう。

また、この度の改訂にあたって、「地域包括ケアシステム」の構築には、在宅の現場や介護施設等に、当然「地域コミュニティー」を構成する施設として、寺院や神社、教会なども入り、地域社会と協働をはかることができると考えております。

これらの現状を十分に配慮された具体的言及のある改訂を望みます。

 

【理由】

  •  「患者本人のこれまでの人生観や価値観等」には、信仰や宗教観が影響すること

人生の最終段階における医療やケアの方針を決めるうえで最も重要になるのは、患者本人がどのような最期を迎えたいか、いかに生を終えたいかという決定プロセスに、本人や家族が主体的に関わることだといえます。ですから、「これまでの人生観、どのような生き方を望むのか等を日頃から繰り返し話し合う」場合は、「患者本人のこれまでの人生観や価値観等」の中に、個人の信仰や宗教観が影響を与えている場合もあることに留意し、ご配慮いただきたいと考えます。

これは、2005年10月の「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」(第34回WMA理事会で編集上修正)の「11.宗教的支援に対する権利」として、「患者は、信仰する宗教の聖職者による支援を含む、精神的、道徳的慰問を受けるか受けないかを決める権利を有する」(日本医師会訳より)と明記されているとおり、世界的基準として尊重されるべきことであります。

 

  • 健康な時から「死」について考える必要性を社会に発信すること

近年では、「終活」や「エンディングノート」といった言葉も聞かれ、国民の「死」に対する意識も少しずつ変わってきています。60年前には在宅で死を迎える方が全体の死亡数のうち80%近くであったところ、平成27年は12.7%(厚生労働省『平成29年我が国の人口動態』平成29年3月)であったことからわかるように、現在は家で家族に看取られながら終末を迎えることが少なくなっています。

古来より信仰や宗教は人々に生きていくための知識や智慧を示し、生と死について、ともに考えてきました。今後在宅での看取りが増えることを念頭に、宗教界では、一人ひとりが「よく生きる」ためには健康な時から「死」を考える必要があることを社会に呼びかけています。「死」をタブーとせず、国民が生前から「死」について考える機会が持てるように、様々な分野からの発信が必要であると考えます。

 

  •  患者本人や患者を支える家族や医療従事者等には「連続性のあるケア」が必要なこと

「高齢多死社会の進行に伴う在宅や施設における療養や看取りの需要が増大」することで、在宅医療や看護、介護、看取りを行う家族等の経済的、精神的負担はますます増加していくことが予測されています。患者本人のQOLの向上は当然のことながら、患者を支える側のケアも重要になり、精神的負担を軽減することにも重点を置くべきだと考えます。

たとえばグリーフケアについて、「人生の最終段階における医療」では、患者の「死」を一つの「点」として捉えず、患者や家族等を取り巻くすべての関わりにおいて、患者の生前から死後へと「連続性のあるケア」が重要となってきます。

また、「人生の最終段階」には、医療やケアの現場を超えた、社会的な繋がりにも注目するべきであると考えます。それは、経済産業省が平成24年4月にまとめた、「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会・報告書~よりよく「いきる」、よりよく「おくる」~」に記載の「生と死の境目には隙間があって曖昧に入り組んでいる。死別後を含めて人は関係性の中で育まれていく社会的な存在であり、そこから完全に自由になることはできない」と、「ライフエンディング・ステージ」という造語の概要に明記されているとおりです。

連続性のあるケアを行うには、社会全体の理解と協力が必要で、そのひとつとして、寺院や神社、教会等で患者や家族、医療従事者等の傾聴を行ったり、同じ境遇の人たちで話をしたりする「場」や「機会」を設けることができると考えております。

 

  •  地域包括ケアシステムは、社会全体の理解と多専門職種による協働が重要であること

これまで、寺院や神社、教会等の施設は地域コミュニティーの一環として、地域住民が集って話し合ったり、情報を共有したりする「場」としての役割も果たしてきました。さらに、宗教界ではチャプレンやビハーラ僧、臨床宗教師等のような、個別の宗教や信仰にとらわれずに患者や家族に寄り添い、こころのケアを行う専門家を育成する経験も積んできています。また、実際に東日本大震災を契機として、被災地では布教を目的としない宗教者による心のケアも行われました。

以上の観点から、今回の改訂のポイントの4つ目にある、「患者が信頼して話し合いを繰り返し行う者を、家族から家族等に変更する」については、「家族等」の「等」に宗教者も含まれると考えておりますし、その重要性にも十分にご配慮いただきたいと希望します。また、地域包括ケアシステムの構築を進めるにあたっては、行政関係施設や企業等施設や地域にある寺院や神社、教会等も地域社会の一員として連携し、多専門職種として関わりながら協働することが可能であると考えております。

 

<医療現場での宗教者の活動等について・補足>

わが国では、淀川キリスト教病院や、聖隷三方原病院に開設されたホスピスを皮切りに、宗教法人が開設した緩和ケア病棟も多数存在し、その働きを行っています。そもそも、ホスピスや仏教のビハーラといった緩和ケアの施設などは、キリスト教や仏教等の精神を基盤としています。また、そこではスピリチュアルケアを担当するチャプレンやビハーラ僧など(宗教者)が、医師や看護師とともにチーム医療に参加し、共に緩和ケアと看取りに携わっております。

また、国際的に、「チャプレン」の活動が知られておりますが、近年、日本でも東北大学等が養成している「臨床宗教師」という宗教宗派に偏らない公共的な役割を果たす宗教的ケアの専門家が活動し、また、「臨床仏教師」など専門的な知識や実践経験をもとに実際に活動しています。

これらの現状を踏まえ、特に個人の信仰、宗教観を尊重し、十分に配慮した改正を望みます。

                       (以上)