第3回宗教法人の公益性に関するセミナー 要旨 「共通番号制度の導入と宗教法人」―マイナンバー社会保障・税番号制度の概要と宗教法人の実務対応について―

共通番号制度の施行を目前に控えた平成27年9月14日、大本山増上寺・光摂殿講堂(港区)において、第3回宗教法人の公益性に関するセミナー「共通番号制度の導入と宗教法人」を開催した。

水町雅子弁護士・前内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐には制度の立案に携わられた経験から番号制度の概要を、また、木村匡成公認会計士・日本宗教連盟監事には宗教法人の実務対応について具体的な内容について、それぞれ講義をいただいた。参加者は熱心にメモを取るなど、制度についての理解を深める有意義な会となった。

宗教法人も役職員等に給料を支払っているため、個人番号を取扱うことになる。今後も法改正や、ガイドラインの改正などが行われることもあるので、定期的に最新情報を確認する必要がありそうだ。

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○ 社会保障・税番号制度の概要について
水町雅子氏(弁護士・前内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐)
1、マイナンバー制度とは

いわゆるマイナンバー法は、正式には「行政の手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用に関する法律」という(以下、番号法)。住民票がある全国民と滞在外国人の一人ひとりに付番される12桁の「個人番号」(マイナンバー、以下、個人番号)と、設立登記法人や国の機関、地方公共団体に付番される13桁の「法人番号」を利用する事で、行政が情報管理を正確にしようという制度。

一生のうち何度か変わる個人情報「氏名、住所、性別、生年月日」と個人番号を結びつけることで、人物の特定が正確になり、かつ早く確認できる。例えば、企業の顧客番号や、基礎年金番号のようなものと考えるとわかりやすい。

行政の効率化、正確化を図り、また、災害時に利用することで住民票と居所が違う場合などに本人の確認が行いやすく、迅速な被災者支援が期待される。防災計画にも利用される。

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徴税強化のための番号制度なのではないかという懸念も聞くが、申告漏や不正受給などがないかといった税務署や社会保障当局の調査を効率的に行うことを目的としている。このように、不正防止のために情報を管理するツールとしての効果がある。また、社会保障のなかで、医療や介護、雇用、保育などの状況を現在の縦割り行政ではなく、横断的に状況把握ができるようになるため、社会保障の充実、国民利便性の向上ツールとしての効果もある。現在は申請しないと様々な免除を受けられないが、役所の方で番号制度を基に、その人が受給できる行政サービス情報を通知するなど、行政側からより積極的なアクションをおこせる可能性もある。

個人番号は、平成27年10月5日以降に簡易書留で「通知カード」が届き、平成28年1月から利用することになる。通知カードと同封の書面で申請した人には、写真入りの公的証明書「個人番号カード」が発行される。なお、生まれた子どもにもすぐに個人番号が与えられる。

法人番号は、設立登記した法人や、人格なき社団等で税法上の届出をしている法人、国の機関、地方公共団体に付番される。法人の基本情報は、原則として、特定の個人のプライバシーを侵害する恐れがないうえに登記事項は公表されているため、利用の制限はない。また、法人番号のカードはない。

個人番号と個人情報との関係で、一般では二つの心配がなされている。個人番号を盗られると、個人情報などプライバシーが侵害されるのではないかという問題と、個人番号が盗まれたり、漏えいしたときに不正に利用されるなど、なりすましの問題である。番号制度の導入が早かったアメリカなどでは、なりすましによる事件が多くあるため、日本の個人番号カードには本人確認ができるよう顔写真がついている。一方、通知カードは顔写真がないため、本人確認が重要である。まずは、実在する本人かどうか顔写真付きの証明書等で確認し、番号自体が間違っていないかも確認する必要がある。個人番号取得の際には、なりすまし防止に本人確認がたいへん重要になるが、確認書類にも色々なパターンが認められている。しばらくは、通知カードを紛失しないよう大切に保管することが大切である。

平成25年に成立、一部施行となった番号法は、施行後3年の平成30年に見直しを行うことが法に規定されている。

 

2、法人の実務への影響

個人番号は実際に、民(個人)―民(企業・法人、宗教法人も)―官(行政等)と動く。つまり企業や法人は、個人が役所に提出する情報の仲介者のような存在になる。今まで事務担当者が行っていた社会保障と税に関する事務手続きに「個人番号」という項目が一つ追加されると考えればよい。

すでに法改正がなされたため、今後は銀行での活用も予定されているが、今のところ社会保障と税の手続きと災害対策のみの取り扱いになる。

 

3、マイナンバー法規制(番号法による保護と規制)

個人番号は、名寄せ効果が強いため、悪用された場合に個人に被害を与える危険性がある。そこで、個人情報保護法(「個人情報の保護に関する法律」)より一段と厳しい規制が定められ、適切な取り扱いを求めるなど法令によって手厚く保護されている。法令違反というと罰則強化(懲役や罰金)のイメージがあるが、罰則は、手違いで紛失してしまったという場合には基本的に適用されず、悪意を持って売却したなどの悪質な行為について制裁する。

個人番号の取扱いで重要なのは、先ず必要以上に入手しない、利用、提供しない。そして、適切に管理することである。国の機関や行政、自治体にも同じ制限が課せられている。この頃は、個人番号の収集・保管などの外部委託サービスも多いが、委託すれば責任がなくなるわけではない。委託しても委託元に責任が残るため、個人番号が適切に扱われるように委託先を監督する義務がある。

個人番号は本人から入手し(ただし、役職員の扶養家族の個人番号は、基本的に役職員が本人確認等を行う)、法律で定められた事務にしか使ってはならない。例えば、同意のあるなしに関係なく顧客管理番号代わりに使うことも禁止である。収集した個人番号の提供は、税務署、ハローワーク、健康保険組合、自治体といった「官」が原則である。例外的に、個人情報保護委員会の求めや、警察や裁判所の令状があった場合も提供することになる。個人番号をどうしても出したくないという人があった場合、税務署などが記載不備として受け取らないことはないが、本人にお願いしてもとれなかった経緯を説明できるようにする。

番号制度の全般にわたって監視監督や指針の作成等を行うために、「特定個人情報保護委員会」という機関があり、同委員会には業務停止命令を出す権限もある。公正取引委員会のような立場の委員会で、平成28年1月からは個人情報保護委員会に名称変更する。また、行政等では日本版プライバシー影響評価として「情報保護評価」を導入。これによって、個人番号はどのように取り扱われているのか、プライバシー侵害などの危険に対してどのような対策を行っているのか、個人番号を提出する個人にとっても、個人情報の取扱いの透明化が図られる。

法人としてやるべき事をまとめると、①取扱い場面の洗い出し、②特定個人情報をどのように守っていくかの決定が重要である。

実際には、現在の実務を確認すれば、個人番号は何に必要か何の書類に使うのかがわかる。また、個人番号を扱う上で、番号取扱者の個人のモラルに委ねるのではなく、組織として特定個人情報をどう守っていくのかということを決めるのが大切である。また、個人番号を取得する際に、何よりも「なりすまし」がないよう本人確認の徹底が重要で、実在する人物か、その人がその人自身であるかどうかの確認と、その人の申告している番号が正しいか確認する。そして、必要なくなったら、個人番号は廃棄処分するということである。

参考情報として、「個人番号カード」は番号制度と離れても、身分証明書として使うことができる。個人番号カード(マイナンバーカード)を落としたら、すぐにコールセンターに電話してカードを停止する。運転免許証・印鑑カードを紛失した時と同様に考えるとわかりやすい。

 

 

○マイナンバー制度の対応
木村匡成氏(公認会計士・税理士・公益財団法人日本宗教連盟監事)
1、マイナンバー対応の準備とスケジュールについて

個人番号(マイナンバー12桁)は、平成27年10月5日現在の住民票住所に、市区町村から「通知カード」に記載され通知される。「個人番号カード」は申し込みをした人にだけ発行される、顔写真入りの身分証明を兼ねたICチップ付きのプラスチックカード。平成28年1月以降に申し込みすることで作成できる。

10月以降に先ず行うのは、番号法対応事務の洗い出しで、法人内部の事務と、外部の方に講演等いただいた場合の謝金など、外部と内部の事務に分けて整理したい。

取扱事務の具体例は、内部役職員の給与所得・退職所得の源泉徴収票作成、雇用保険・労働保険・健康保険と厚生年金の届出事務(健康保険と厚生年金関係の利用は平成29年1月以降)。収集の時期は、平成28年1月の番号法実施前に「扶養控除等申告書」で収集も可能である。なお、すぐに収集せず、安全な管理体制が整ってから必要書類の提出時期にあわせて期中に取得しても良い。期中退職者や就職者はそのタイミングで必要となる。

2014122403外部の謝金では、報酬・料金の支払調書、不動産の使用料等の支払調書(個人宛)等の事務で取り扱うことになるが、件数が多いと取得の時期は様々になることも考えられる。また、個人番号の提供拒否があった場合、国税庁が書類を受けらないことはないが、個人番号関係事務実施者として、相手に法令の義務であることを説明し提供を求めたが拒否された経緯等を保存しておくとよい。

番号法では、給料の支払いがある役職員数が100人以下であると、中小規模事業所として、事務の簡素化など実務的な配慮がある。多くの宗教法人が、中小規模にあたると思われるため、最低限の対応をおさえておくとよい。

 

2、基本方針・取扱い規定について

基本方針・取扱規程について、従業員の規模が多い一般の事業者はどちらも備え付ける必要がある。中小規模事業者は、基本方針として最低限の注意事項を周知させ、取扱規程の代わりに、特定個人情報等の取扱いについて安全管理措置を明確に記載した業務マニュアルや業務フロー図、チェックリスト等での対応も可能である。(平成27年9月現在)ただし、法改正もあるため最新の情報を確認いただきたい。

 

3、安全管理措置

一般事業者の安全管理措置には、組織的、人的、物理的、技術的の四つの点を徹底するとよい。

(1)組織的安全管理措置には、①事務取扱責任者、取扱い担当者を明確にする。②システムログ、執務記録など運用状況を確保して、特定個人情報の取扱状況を確認する。③情報が漏えいした時の連絡体制や対応を整備する。④取扱状況や安全管理措置が行われているか定期点検する。

(2)人的安全管理措置として、責任者が取扱担当者の監督と教育を行う

(3)物理的安全管理措置として、取扱担当者の座席配置や区域を明確にする。機器や電子媒体等をワイヤーで固定したり施錠したりして盗難防止の措置を行い、持ち出し時の漏えい等防止のためにデータにはパスワードをかけたり暗号化したりする。また、各書類の所管法令に基づき保存期間(税務関係書類は7年、雇用保険関係の書類は4年、健康保険と厚生年金については2年保存)を経過した場合は、個人番号のデータ等を復元不可能な状態で確実に消去、または、廃棄処分し責任者の確認を行う。また、個人番号の取扱い記録を残すようにする。

(4)技術的安全管理措置として、情報システムの管理を検討し不正アクセスの防止を行う。外部からの不正アクセスや侵入を防ぐために、ウイルス対策ソフトのファイアウォール機能等を利用し情報システムを保護する。また、内部でも取扱担当者以外のアクセスができないようにユーザーIDやパスワードの設定を行う。また、外部業者に委託して管理するなどの方法もある。(データ送信時は暗号化する)

4、中小規模事業者の最低限の対応項目

事務取扱担当者の決定、個人番号の取扱事務は担当者のみで区分を明確に、担当者専用のPC等にIDやパスワードを設定、番号事務実施の記録を執る。また、取扱担当者に対する監督と、制度概要や取扱い規定、利用目的、特定個人情報漏えいのリスク等の教育を徹底する。

(平成27年12月16日掲載)

 

【関連ファイル】第3回宗教法人の公益性に関するセミナーの要点(PDF)

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公益財団法人日本宗教連盟

「第3回宗教法人の公益性に関するセミナー『共通番号制度の導入と宗教法人―マイナンバー社会保障・税番号制度の概要と宗教法人の実務対応について―』」要旨

平成27年9月14・会場 大本山増上寺・光摂殿

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