鳥取県による宗教法人の財務情報開示について(7)
鳥取県による宗教法人の財務情報開示について(7)―日宗連からの質問
鳥取県知事 片山善博 殿
財団法人 日本宗教連盟
事務局長 斎藤謙次
鳥取県における「宗教法人提出書類」の情報開示に関する質問
貴県情報公開条例(以下、「貴県条例」という)に基づく宗教法人提出書類(以下、「提出書類」という)の情報開示について、本年3月31日付文書でお尋ね致しましたところ、ご回答いただき有難うございました。
当連盟では、貴県に対しこれまで三度にわたり質問書をお送りしましたが、「提出書類は不開示情報である」とする当連盟の理解と、「提出された書類は公文書となり、条例に従い開示する」という貴県の立場は、平行線をたどっているものと存じます。
今般、4月26日付で三回目のご回答をいただきましたが、その中で、国の法律と県条例の関係について、「制定権者が異なる以上、その解釈運用を異にすることは当然」との見解、さらには、貴県条例による提出書類の情報開示と宗教法人法第25条第3項との関係について、「立法政策の問題として解決されるべきもの」とする認識が示されました。これらのご回答を検討した結果、上記の見解と問題認識では、全国約18万の宗教法人は、今後、管理運営に混乱を来たすものと判断し、ご回答の詳細について再度ご説明いただきたくお尋ねいたします。
ついては、下記の事項について6月15日までに文書にてご回答下さいますよう、お願い申し上げます。
記
1.貴県は、「宗教法人から提出された書類についても特別に取り扱うことはできない」との見解ですが、この点について再度お尋ねいたします。
全国約18万の宗教法人は、平成7年12月の宗教法人法の改正により、同法第25条第4項で「事務所備え付け書類の写し」、すなわち役員名簿、財産目録、収支計算書、貸借対照表(作成している場合)、境内建物(財産目録に記載されているものを除く)に関する書類、公益事業、収益事業を行う場合はその事業に関する書類を所轄庁に提出することが義務づけられました。
これらの書類は、もともと宗教法人内部の書類で、平成7年改正前の宗教法人法では、単に、その作成と事務所への備え付けだけが義務とされていました。宗教団体は、憲法20条で信教の自由を保障されており、法人に関するこれらの書類を「所轄庁に提出しなければならない」とした平成7年の宗教法人法改正は、宗教法人の自主性、自律性を損なうとの理由から、国論を二分する議論となりました。
こうした議論を経て、宗教法人法第25条第5項では、所轄庁による提出書類の取り扱いについて、「宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないよう特に留意しなければならない」旨が定められました。
一方、平成11年5月、情報公開法が成立しましたが、その制定過程で日本宗教連盟は平成9年10月、小里貞利総務庁長官(当時)に意見書を提出し、宗教法人法第25条第4項によって所轄庁に提出された書類が「公文書」と位置づけられ、情報公開法によって開示されることで宗教法人やその関係者の信教の自由が侵害されるおそれがあることを指摘しました。
その結果、「情報公開法第5条第2項イ」の条文に「権利」という文言が加えられ、行政が所有する情報のうち「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位、その他正当な利益を害するおそれがあるもの」は開示しないことが明確にされた次第です。小里総務庁長官は、平成10年5月12日の衆議院内閣委員会での質問に答え、「憲法が保障する権利、信教の自由などは当該法人等又は当該個人の権利として当然に保護される」との答弁をいたしました。すなわち、憲法上、宗教団体(法人)に保障されている信教の自由を害するおそれのある情報は、不開示情報とすることが確認されております。
ご承知のとおり、宗教法人は、学校法人や社会福祉法人などとは異なり、政府などからの補助金、助成金を受けることは一切ありません。その経済基盤は、各宗教法人の会員・信徒からの布施・献金によるものです。こうしたことから、宗教法人が提出する書類は、他の公益法人が提出する書類及び一般の公文書とは性格を大きく異にしております。
「情報公開法第5条第2項イ」の規定及び信教の自由を保障されている宗教法人の特性を否定してまで、貴県はいかなる理由で「宗教法人から提出された書類についても特別に取り扱うことはできない」と判断されたのか、ご説明下さい。
2.貴県は、貴県条例第9条第2項3号アにいう「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利」について、「宗教法人についてはその権利に信教の自由に基づく権利が含まれる」(3月15日付回答)との見解を示した上で、「例えば、檀信徒数や宝物等に関する記載をとおして、宗教法人の尊厳を損なうのかを判断」するとしています。
しかし、所轄庁が宗教法人の提出書類のうち、非公知の事項について一般に公開した場合、当該宗教法人の管理運営に関わりを有しない第三者により、当該宗教法人が宗教活動に対する誹謗中傷を受けるなど、自由な宗教活動を妨害されることは十分に想定されます。
また、役員名簿の公開は、個人の信仰が当該個人の意思と無関係に開示されることを意味しています。さらに財産目録、収支計算書、貸借対照表の公開は、第三者による当該宗教法人の財務運営への不法行為の要因となるほか、興味本位の比較報道の材料に使用されかねません。こうしたことが生起すれば、当該宗教法人は大きな不利益を受けることとなります。
貴県は、提出書類のうち非公知の事項の開示について、「宗教法人の権威、威信、神秘性といった宗教的な価値や信仰心」を判断の基準(鳥取県・2月6日付「県民の声」)としているとのことですが、行政が宗教的価値判断に関わることは、行政の宗教活動への介入となることは明白です。何故なら、「宗教的な価値や信仰心」という判断基準は、宗教的基準そのものですから、宗教的基準を適用した判断は、「宗教的判断」そのものです。行政による宗教的判断が禁止されていることは、改めて言うまでもありません。
そこで、提出書類のうち宗教法人の非公知事項の開示は、当該宗教法人の信教の自由、宗教上の結社の自由の侵害とならないのか、ご説明下さい。
また、貴県が行政庁として「宗教法人の権威、威信、神秘性といった宗教的な価値や信仰心」を判断することは、行政が宗教的判断をすることになり、日本国憲法の信教の自由に違背する行為とならないのか、ご説明下さい。
3.前回質問書(3月31日付)で、「貴県条例に基づく宗教法人の情報開示は、宗教法人法第25条が保障する開示請求を拒否する権利を侵害することにならないか」をお尋ねしましたが、貴県からは「立法政策の問題として解決されるべきものと考える」とのご回答でした。
そこで、法律に基づいて行政を行うのが行政庁の責務と存じますが、貴県は関係する法律に立法政策において解決されるべき問題をどのように捉えておられるのか、ご説明下さい。
以 上